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恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(4)


このお話は、わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(3) の続き になります。

よろしければ、episode10 スカッシュ(1) から順にお読みいただくと、話がわかりやすいかと思います。




一巡したところで、コーチが休憩タイムをとった。
姫が一番コートのドアに近いところにいたので、先に出ようとしたところ、ドアに鍵がかかっていてうまく外せず、もたもたしてしまった。
すると、コーチがさっと駆け寄ってきて難なく開けてくれた。

「すいません。なんか手間取っちゃって」
そう言う姫の横をすり抜けながら、威嚇女がボソッと低い声で言った。
「わざとだろ」
姫は目を大きく見開いて、まじまじとその女を見た。相変わらず、姫を睨みつけてくる。

ふたりの女がベンチを占領していたので、姫は立って汗を拭き、ミネラルウォーターを飲んでいた。
「姫さん、ここ、座っていいよ」
コーチが奥のベンチに座っていて、その隣を姫に勧めた。
「はい、ありがとうございます」

彼女たちのベンチの横を、急いで姫が通り抜けようとしたときだった。
「あっ、痛ーい」
気がつくと、何かにつまずいて、床に思いっきりうつ伏せの状態で倒れていた。
奥のベンチから慌ててコーチが走って来て、姫を抱き起す。

「大丈夫?」
「はい。ちょっと膝すりむいたくらいなんで」
見なくても、姫にはわかった。「チッ」という舌打ちも聞こえたので、確信した。
どっちかの女が、わざと足を出して、姫を引っ掛けて転ばせたのだ。

コーチが彼女たちに向かって言った。
「悪いけど、今日のレッスンはこれで終わりにします」
「えー、なんで? その子、ほっといてわたしたちだけでしましょーよー」
「これは、僕のレッスン中に起きた事故なんで、僕には責任があります」
「そんなの、勝手にその子が転んだだけじゃない?」
「そうよ。事故でもなんでもないじゃん」
ふたりの女は口をとがらせて言う。
それを振り切るかのように、コーチはきっぱりと言った。

「とにかく、今日は終わりです。お疲れさまでした」
そこまで言われると、諦めるしかないので、彼女たちは未練たらしい顔をしつつも引き上げていった。
「ありがとうございましたー」
語尾が下がり、明らかに不服そうだ。
帰り際、姫を睨みつけることも忘れない。

「コーチ、すいません。わたしのせいで……」
「ううん、姫さんのせいじゃない」
「だって……」
「僕、見てたんだ」
「え?」
「ごめん」
「どういうこと?」
「あの人たち、姫さんの足、引っ掛けたんだ」
「そうだったんですか」
「気がつかなかった?」
「倒れたときは、あれ?って思ったけど、そのあと、『チッ』って誰かの舌打ちが聞こえたから、あとでそうかなって」
「彼女たち、いつも僕のレッスンに出てきてね。ここの前にいたスポーツクラブのときから、いわゆる『追っかけ』って言うのかな。こっちのクラブに移ってからも来るようになって。……別にレッスンに出てくれることは構わないんだけど、他の子が入るといつもトラブル起こすから」
「そんなことがあったんですか」
「だから、姫さんに申し訳なくて」
「いえ。コーチも大変なんですね」

「いつだったかは、練習中に、わざと顔めがけてボールを打ちつけたこともあって」
「えー? あの人たち、そんなことまでしてたんですかー?」
「だから、そのときはさすがに厳重注意したんだけど」
「コワイですよね」
「うん。ここの支配人にも僕、注意を受けたことがあって」
「コーチが注意されちゃうなんて、おかしいですよね」
「でも、僕のレッスン中の事故だから」
「でも……」
「そんなこともあってね、この仕事、そろそろ辞めようかなって……」
「えー、そんなー。せっかくスカッシュ面白くなってきたのに、コーチがいないとつまんない」
「申し訳ない」
「ほかのスポーツクラブに移るとかじゃなくて?」
「うん。結局、どこに行っても同じだから」
「コーチにもっともっと教わりたかったな」

淋しそうにつぶやく姫。




     【episode10 スカッシュ(5)に続く】





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わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月







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恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(3)


このお話は、わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(2) の続き になります。

よろしければ、episode10 スカッシュ(1) から順にお読みいただくと、話がわかりやすいかと思います。




三十分の体験レッスンが終わって、姫がコートから出てくると、ちょうどコートにやってきたところの、アラサ―OL風の女二人が姫のことをジロッと睨みつけた。
「なんだろ、感じ悪~」と姫は思ったけれど、大して気にも留めずに、その日は帰った。


それから一か月が過ぎようとしていた。すっかりスカッシュの魅力に取りつかれた姫は、斗真コーチ以外のコーチの体験レッスンにも何度か参加してみた。ただ、マンツーマンということは一度もなく、定員の五人で交互にコーチと打ち合うため、練習量が全く違った。
また、コーチによって、癖があるというか相性もあるので、初めてのコーチが斗真コーチで、しかもマンツーマンだったのは本当にラッキーだったと思う。もし、斗真コーチじゃなかったら、こんなにもハマらなかったかもしれない。


そんなある日、あの感じ悪い女二人組と、斗真コーチのレッスンのときに一緒になった。
言動から察するに、どうやら彼のファンらしい。姫がマンツーマンで教えてもらっていたので、妬まれたのかもしれない。

その日のレッスンは、姫と彼女たちの三人だった。
「じゃ、姫さんから」
斗真コーチは姫の名前を一番に呼んで、手招きした。たまたま、予約票の一番上に姫の名前があったからだと思うけど、その順番も彼女たちは気に入らないようだった。

コーチの見ていないところで、つまり、姫とどちらかの女が、コートの隅っこで見学しているときに、いきなり脅された。
「アンタ、何、いい気になってんの?」
「はぁ?」
「斗真ちゃんに色目使ってんじゃねーよ」
「別に使ってませんけど」
「こないだ、マンツーマンだったろ?」

姫はもうこれ以上相手にするのはよそうと思って、無視した。
「なに、シカトしてんだよ!」
スポーツクラブにはおよそ似合わない、ばっちりメイクの顔が、ドスのきいた声で姫を威嚇する。

そのとき、時間が来たようで、威嚇女がコーチと打つ順番になった。さっきとは全く違う満面の笑顔で、「コーチ、お願いしまーす」と言っている。
「どっちが、色目使ってんのよ!」と心の中で叫ぶ姫。

先ほどまでコーチと打っていた女が、姫と並んで見学になる。
「アンタ、見かけない顔だね」
またしても「アンタ」呼ばわりかい? と心の中で思いながらも、「あ、どーも」だけで済ませる。下手にこの人たちと関わると面倒なことになる気がした。

「いつから?」
「何がですか」
「斗真ちゃんのこと」
「はぁ?」
この人たち、「斗真ちゃん」とか呼んでるんだ。似てるもんな、確かに。わたしも「斗真コーチ」って、陰では呼んでるけど。でも、「ちゃん」付けはどうなの? コーチと同い年くらいじゃないの? それに意味わかんないし、何言ってんだろ。

「いつから、斗真ちゃんのこと、好きなんだって訊いてんだよ!」
この人も凄味をきかせてくる。
「別に好きとか……。ただ、コーチとして、スカッシュ教えてもらってるだけですけど」
「ちげーだろ」
「違いません」

そのあとも、グダグダしつこかったので、姫はこのカンチガイ女のことも無視することにした。



     【episode10 スカッシュ(4)に続く】





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わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月






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わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(2)


このお話は、わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(1) の続き になります。

よろしければ先に、episode10 スカッシュ(1) をお読みいただくと、話がわかりやすいかと思います。




その日の体験レッスンは、姫だけだった。これは奇跡的な幸運だったと、あとになって姫は思った。
「姫さん、今日はマンツーマンなので、ゆっくり自分のペースで、楽しんでいきましょう」
斗真コーチ(と、勝手に姫は呼んでいた)の穏やかな掛け声で、レッスンは始まった。

スカッシュコートはガラスの箱みたいだ。正面と左右の壁はガラス張りではないけれど、出入りする面が透明なガラスなので、外から見られているのがよくわかる。

ストレッチを含む軽い準備運動のあと、斗真コーチがラケットの持ち方、構え方を丁寧に教えてくれた。
テニス経験のある姫は、スカッシュも同じようなものだから簡単にできるだろう、と高をくくっていた。ところが、まず構え方が違った。テニスでは正面を向いて構えるが、スカッシュだと横向き、つまり右利きの姫の場合は、右の壁に向いて立つことになる。これが、フォアハンド。

「一、二、三。……一、二、三」
コーチの掛け声に合わせて、素振りする。
フォアハンドはなんとか形になっていたけれど、バックハンドのとき、姫はテニスの癖でつい両手打ちになってしまう。
スカッシュでは片手でしか打たないのだと言われた。余計な経験が邪魔をして、なかなかうまくできない。
「コーチ、どうしてもテニスの癖が出ちゃうみたい」
姫は珍しく弱気になった。
「大丈夫。すぐ慣れますよ」
コーチは、にこにこして言う。

「じゃ、実際にボールを打ってみましょう」
「はい」
コーチは小さな黒いゴムボールを、ハーフパンツのポケットから取り出すと、床にラケットでポンポンポンポンポンッとリズミカルに打ちつけた。すごい速さだ。
それから、正面の壁に向かって思いっきり打つ。ワンバウンドして戻ってきたところを、すばやくまた正面に叩きつける。これを連続して、ビタンッ、ビタンッ、ビタンッと何度も繰り返す。
リズムがあっていいけれど、コーチ、もしかして、怒ってる? と、疑いたくなるような激しい打ち方。
さっきまでの優しいコーチは、どうしちゃったの?
姫はその迫力に、少し圧倒されていた。

「さぁ、ボールが温まったので、打ってみましょう」
「あの~、コーチ。なんかさっき、ちょっと怖かったんですけど」
「あ~、ごめんごめん。スカッシュのボールって、寒いと硬いままで弾まないから、早く温めようと思って」
「硬いと打てないんですか」
「弾まないから、打ってもすぐ下に落っこっちゃうんだ」
「そうなんだ~」
「温まると、ボールの中の空気が膨張するから弾むようになるんだよ。……じゃあ、行くよ」
「はい、お願いします」

なんという運動量だろう。空振りも何度かしたけれど、姫は必死に食らいついていった。
五分もしないのに、もう汗だくだ。ハァハァするし、喉もカラカラ。姫はコーチに願い出る。
「ちょっと汗を拭いて、お水飲んできてもいいですか」
「じゃ、ちょっと外に出て休憩しましょう」

コーチが先に立って、コートのドアを開けてくれる。姫はコートから出ると、ベンチに座ってまずタオルで汗を押さえ、続いてミネラルウォーターをゴクゴク飲んだ。
隣に座ったコーチも少しだけ飲んでいた。

「姫さん、上手ですよ」
「もうバテてますけど」
姫は苦笑いした。
「スカッシュは、テニスの二倍の運動量だって言うから」
「そうなんですね。ずいぶんハードだと思ったら」
「でも、初めてでこれくらい打てたらすごいですよ。姫さん、センスある」
「そう? コーチ、みんなに言ってるんでしょー?」
「いやいや、ほんとに上手ですよ」
「それはね、きっと教える人が上手だから」
「ありがとうございます。そう言われると、うれしいな。じゃ、後半戦、もうちょっと行きますか?」
「はい、よろしくお願いします」




     【episode10 スカッシュ(3)に続く】





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