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恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode14 入社式前日デート(6)


戸川の言いたいことが、姫にはなんとなく読めた。
でも、敢えてそこで話題を変える。

「ねぇ、赤レンガ倉庫って、広いの?」
「うん、結構」
「早く行ってみたい」
「うん、今向かって歩いてるんだよ」
「そうなんだ?」

しばらくふたりは、黙ったまま歩いていた。
姫が遠くの海を眺めながら、しみじみと言った。

「なんか、嘘みたい」
「何が?」
「今、戸川くんと、こうして日本で一緒にいること」
「ほんとに、そうだね」
「不思議な感じ」
「そうだよね。一か月前には出逢ってなかったんだから」
「うん。ご縁……なのかな」

「うん、そうだと思う。俺たち、もしハワイに行ってたら、姫さんに出逢うこともなかったわけだし」
「戸川くんたち、ハワイに行くつもりだったの?」
「うん、馬場と内山がハワイに行きたいって言ってて、俺と長瀬がオーストラリアがいいって言ってたの」
「それで?」
「ニニで分かれて行く案も出たんだけど、最後だし、せっかくだから四人で行こうってことになって。で、ハワイは働き出してからも行けるかもしれないけど、オーストラリアはそうそう行けないんじゃないかってことになって」
「へぇ、そうだったんだ? やっぱり戸川くんは長瀬くんと一番仲良いのね?」
「うん、あいつとは何でも話せる」

「そういえば、長瀬くんって、彼女いるんだよね?」
何気なく、姫は長瀬のことを話題にした。
「うん、よく知ってるね」
「だって、長瀬くん、自分でそう言ってたから」
「え? あいつ、そんなこと言ったの?」
「まぁ、自分から言い出したわけじゃないけど。わたしが先に訊かれたから、訊き返したの。そしたら『いるよ』って即答だった」
「ふーん。長瀬のとこは、長いよ。多分結婚するんじゃない?」
「そう」
「うん。高校生のときからずっとつきあってきた彼女で、親も公認だから」
「どんな人か知ってる?」
「うん、何度か連れて来てたから。控えめで感じのいい、綺麗な人だよ」
「そうなんだ」

会ったこともない長瀬の彼女を想像して、姫のテンションは一気に下がった。
「姫さん、長瀬のこと、好きだったでしょう?」
「え、なんで?」
「見てたらわかるよ。今だって、ほら、テンション下がった」
「…………」
「オーストラリアにいるときから、それはわかってたんだ。でも、俺は姫さんがいい」
「…………」
「ごめん、また姫さんのこと、困らせちゃった」
「ううん」


       【episode14 (7)に続く】




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わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月






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わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode14 入社式前日デート(5)


それからまた車に乗って、「ザ・横浜」という感じの中華街へ案内される。
肉まんを食べながら歩いている人が多い。甘栗の試食販売もしている。

ちょっとごちゃごちゃしたような大通りから、一本裏通りへ入るととたんに人も少なくなる。

「俺の父親、昔、この辺でコックをしてたらしいんだ」
戸川がポツリと言った。

「そうなの?」
「うん。日本人じゃなくってね」
「そうなんだ」

戸川は自分の父親の話をするために、この裏通りに入ったのだろうか。
彼の生い立ちのようなものを聞けば聞くほど、興味がわいてくる。
ちょっと悲しい過去を持っている人なのかもしれない。
あえて訊かないほうがいいだろうけど。


「さぁ、次に行こう!」
気分を変えるように、意識的に元気な声で戸川が言った。

「うん、今度はどこ行くの?」
「赤レンガ倉庫」
「わぁ~! そこ、すっごく行きたかったんだ」
「撮影でもよく使われるからね」
「うん」
「ここから遠いの?」
「ううん、そんなに遠くないよ。山下公園を通って行こう」
「うん!」

山下公園は平日のせいか、そんなに人も多くなかった。
「このへん、何も考えずにぶらっと歩くのって素敵」
氷川丸を横目に見ながら、姫はつぶやいた。
多分、それは戸川の耳には入っていないだろう。

彼が姫に提案する。
「ソフトクリーム、食べる?」
「うん」
「ちょっと待ってて」

移動式のソフトクリームを売っているおじさんから、戸川がふたつ買って戻って来る。
「はい」
「ありがとう」
「冷たくて美味しい」
「ほんとね」
「そういえばさ、メルボルンでも食べてたよね?」
「あぁ、あの庭園の外の?」
「うん、俺たちも食べたよ」
「そうだったの? わたしはリナと二種類買って、半分こして食べたの」
「そうだったんだ? しずちゃんは?」
「いらないって、先にバスに戻ってたから」

「もともとリナさんとふたりで行くはずだった、って言ってたもんね」
「うん、なんで?」
「いや、リナさんと仲良いとは思ったけど、しずちゃんって、どうなんだろうって」
「どうって、どういう意味?」
「いや、これは俺の勝手な思い込みっていうか、あんまりつっこまれても困るんだけど、なんかさ、ちょっとふたりとは違う雰囲気っていうか……」
「あ~、やっぱそういうのって、わかっちゃうのかな?」
「ん?」
「もともと、しずちゃんってわたしの友達ってわけじゃなくて、リナの友達だったの。リナをスキーに誘ったら、しずちゃんも付いてきた、みたいな」
「そうだったの?」
「うん。オーストラリアもそんな感じ」
「じゃ、もともとそんな仲のいい友達ってわけでもないんだ?」
「うーん、まぁ。リナに比べたら全然かな」



       【episode14 (6)に続く】



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わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode14 入社式前日デート(4)


なんだか、イメージが違った。
オーストラリアで見た戸川より、少し押しが強いというか……。

「戸川くんのこと、まだよく知らないし……」
本当に好きだったら、これから知りたいと思う、いつもの姫の言うセリフではない。

「これからふたりで、ゆっくり知っていけばいいよ」
「……今、返事しないと、ダメ?」
「ううん、今じゃなくていいよ」

姫のほうから逢いたいと言って、わざわざ来たものだから、きっと戸川の自信になったのかもしれない。
もしつきあうことになったとしたら、本当にしずちゃんには秘密中の秘密だ。

「わかった、じゃ、もう少し考えさせて」
「うん。いきなりでごめんね」
「うん、いきなり過ぎだよ。もう、びっくりしてお寿司がのどを通らなかったらどうしてくれるの?」
「あはは。きっとそれはないな」
「どうして?」
「姫さん、食べるときは真剣に食べる人だから」
「まぁ。否定はしないけど」

「俺、実はずっと姫さんのこと観察してたんだ」
「そうなの? なんか恥ずかしいな、そういうのって」
「でも、姫さんも俺のこと、よく見てたでしょ?」
「そう? そんなこともないと思うけど」
「だって、オレンジが好きなこと……」
「あぁ、あれはね、たまたま。いつだったか、朝食バイキングのとき、お皿に山盛り取ってるのを見ただけよ」
「そうか。でも、オレンジって食べ出すと止まらなくなるんだよな」
「そんなに好きなの?」

「うん、母親の影響かもしれないけど」
「お母さんも好きなの?」
「うん、俺んち、父親がいないんだけど」
「えっ? そうだったんだ?」
「うん、父親と出逢ったきっかけがオレンジだったらしくて、以来、母親のオレンジ好きが始まって。俺が物心ついたころには、父親はもういなかったから、写真でしか知らないんだけど、手にオレンジ持って写ってるんだよな」
「そう……」
「俺にとっては、オレンジって家族の象徴なのかもな」
「そうなのね」

メルボルンで出した、姫の結論は間違っていた。
戸川はただ単純にオレンジが好きなわけではなかった。
そこには、家族に対する深い思いがあったのだ。


美味しいお寿司を、姫は戸川にご馳走になった。
ワリカンがいいと何度も言ったのだが、わざわざ来てくれたから、という彼の言葉に結局甘えることにした。


【episode14 (5)に続く】





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