恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode13 入社前研修の日々(1)


その昔、わたしがまだ姫と呼ばれていたころの話。

そのころ、姫は慌ただしい毎日を送っていた。
大学の卒業式も無事終わり、いろいろ部屋を片付けたり、実家に久しぶりに帰ったり、お墓参りに行ったり……。


そういえば、オーストラリアへの卒業旅行で知り合った、戸川からの写真はどうなったのだろう?
すぐ送ると言ったのに、帰国してからもう二週間が経とうとしていた。
それほど気にしていたわけではないけれど、ちょっと遅いのでは? 
そんなことを思っていると、部屋のポストがカタンと音をたてた。

「!」
予感的中。戸川からだった。
例の、空港で一緒に撮った写真のほか、みんなで撮ったものや、いつの間に撮ったのか、姫だけの写真も数枚あった。

ツーショット写真の戸川の顔は、ちょっと怒ったような感じで、カメラを見ずに少し上のほうを見ていた。
その横で、姫はうれしそうにしていた。きっと、長瀬が撮ってくれたからだろう。

小さくて角ばった文字の、短い手紙が一枚。
その最後の行には、なぜか自宅の電話番号が一段と小さな字で書かれている。
これは、どう解釈したらいいのだろう。お礼の電話をかけるべきなのか、それともハガキで出せばいいのか、悩むところだ。

とりあえず、リナに電話する。
「ねぇ、リナ。来たよ、戸川くんから」
「あ~、そういえば写真送るって言ってたもんね」
「うん。それがね、わたしのブロマイドとかも入ってた(笑)」
「え? どういうこと?」
「隠し撮りしてたんだよ」
「なに、それ? ほんとなの?」
「まぁ、可愛く撮れてるからいいんだけどね」
「どっちよ? 姫、撮られて嫌だったの?」
「ううん、別に嫌じゃない。ただ、ちょっとびっくりしたけど」

「で、手紙とかは入ってなかったの?」
リナも興味があるようだった。

「入ってた。それが問題なのよ」
「なんか困ったことでも?」
「うーん、困ってはいない。けど、悩んでる」
「どういうこと?」
「あのね、自宅の電話番号が書いてあったの」
「で?」
「これって、電話したほうがいいのかなぁ」
「うーん、どうだろ?」
「なんか、いきなり電話するのもねぇ」
「だよねぇ。でも、戸川くん、かけてほしくて書いてきたのかも」
「やっぱ、そうなのかなぁ。でも、誰が出るかわかんないし……」
「ケータイなら、ともかくね」
「うん。お母さんとか出たらなんて思われるかな、とか」
「うーん、それは悩むよね」

「どうしよう~、リナ」
「いつもの姫らしくないじゃん」
「そうなんだよね」
「お母さんにどう思われるか気にするってことは、よく思われたいってことだよね?」
「うん? そうか」
「ってことは、戸川くんのこと、気になってるってことじゃないの?」
「うーん、そうなのかなぁ。よくわかんない。『好き』って言い切れるほど、好きじゃないとは思うけど、気になりかけてるのは事実かも」
「じゃあ、電話してみたら?」
「リナ、人のことだと思ってずいぶん簡単に言うよね?」
「いつもの姫なら、わたしに電話する前にさっさと戸川くんにかけてるよ?」
「うん。……だね!」
「なんか、姫らしくないね」
「そうだよね、なんでだろう」

リナの口調が、いつもよりきびきびしていた。
何度も「姫らしくない」と言われて、ちょっといい気がしなかった。

リナのほうはというと、江崎の引っ越しの手伝いを頼まれ、その後、引っ越し当日も見送りに行ったりで、すっかり今では遠距離恋愛中なんだとか。
それで、姫にも戸川との遠距離をけしかけているのだろうか。


          【episode13 入社前研修の日々(2)に続く】





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