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恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode13 入社前研修の日々(2)


三月下旬になり、就職先の入社前研修が始まった。

結局、戸川にはお礼のハガキを出しただけで、電話はしなかった。
正確に言うと、何度かかけたのだが、誰も出なかったのだ。
戸川が電話番号を間違えて書いて寄越したのだろうか。
でも、自宅の番号を間違えるなんて……。

戸川からは、ハガキの返事も来ない。
まぁ、姫からのお礼状だから、それに対して特に返事がないのは不思議でもないけれど。
そんなことを考えていると、姫は妙に戸川のことが気になってきた。


こういうときは、星の運行表を見るに限る。
姫は星占いが好きで、自分でも星の動きを読むと流れがわかる。

やっぱりだ。
コミュニケーションや交通、仕事関係、デジタル機器などを支配する水星が逆行している。
水星は年間で三回ほど、それぞれ三週間くらい逆行する。
この期間の主な特徴は、物事がすんなりサクサク進まないということ。
電話がつながらなかったり、手紙の返事が遅れたり、というのはその最たるもの。
こういうときは、そういうもんだと割り切って焦らないこと、気にしないことが一番だ。
また、体調も崩しやすいから無理をしてはいけない。


そんな中での研修は、思ったよりも大変だった。
会議室でのマナー研修は退屈だったし、お寺での宿泊研修に至っては意味がわからなかった。
早朝五時に起きて掃除。日中は写経に、合気道、座禅の日々。
お風呂は短時間で、洗髪時間もなく、もちろんメイクも禁止。
いったいこれが、なんの仕事に役立つというのだろう。
極度の緊張と疲労に、何度くじけそうになったことか。
同期入社で親友のリナがいなかったら、姫は途中で投げ出していたかもしれない。


そんな研修の合間の初めての休日、姫はふいに思い立って戸川に電話してみた。
「戸川さんのお宅でしょうか。わたくし、オーストラリアでご一緒させていただきました、京都の……」
「えっ? もしかして、姫さん?」
「戸川くん?」
「うん、びっくりした」
「あー、よかった。やっと通じたわ」
「やっとって?」
「写真が届いたとき、何度かかけたの。でも、誰も出なかったから」
「そうだったんだ? うち、昼間は親は仕事で、俺はバイトだから、誰もいないことが多いんだ」
「そうだったの? 番号、違うのかなとか、いろいろ考えちゃった」
「ごめん。でも、姫さんの元気な声が聞けて、すごくうれしいよ」
「あら、あんまり元気じゃないのよ」
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
「ううん、そうじゃないんだけど、入社前研修でヘトヘトなの」
「そんなに大変なの?」
「うん、もう死にそう」
「大丈夫?」
「うん、なんとかね。……戸川くんの声、久しぶりに聞くと、なんか安らぐわ~」
姫の正直な感想だった。

「そう? よかった。今日は研修ないの?」
「うん、やっと休み」
「いつまであるの?」
「研修?」
「うん」
「入社の二日前までだから、あと二日かな」
「もうちょっとだね。頑張ってね」
「うん、ありがとう」

「戸川くんは? 研修とかないの?」
「うん、特に入社前はないかな」
「そう、いいわね」
「うん」

「なんか、こうやって話してると、戸川くんに逢いたくなっちゃった」
「うそ? ほんとに?」
「うん、なんか癒されるんだよね」
「うれしいな。俺もずっと、姫さんにもう一度逢えたらなぁって思ってたんだ」
「じゃ、逢おうか?」
「でも、逢うって言っても、姫さんは京都だし、俺は川﨑だから」
「それがね、四月一日の入社式って、東京の本社であるの。だから、そのときに」
「マジ?」
「うん。前の日に行って、戸川くんと逢えばいいじゃん?」
「平気なの?」
「うん、その日はおばあちゃんちに泊まるから」
「おばあちゃん、こっちにいるの?」
「そう、都内に住んでるの」
「わぁ、マジうれしい。夢みたい」
「わたしも。なんか元気になっちゃった」


水星逆行中は、うれしいこともある。しばらく会っていなかった人に再会したり、懐かしい人から連絡が来たり……。
過去に縁のあるときなのだ。

こうして姫は、数日後に戸川と再会する約束をした。
信じられないような展開だった。
軽い気持ちで電話したのに、まさか逢うことになるなんて……。

早速、リナに報告しなきゃ。
しずちゃんには、ますます秘密が増えてしまった。

リナは意外なことに、すごく喜んでくれた。
最初は、住所を教えるなんて、と警戒気味だったけど、自分が江崎と遠距離恋愛をしているせいか、むしろ姫を応援してくれた。

そして、リナも入社式の前日に、姫と一緒に東京に行くと言った。
どうやらリナはリナで、千葉の江崎と逢おうと思っているらしかった。



     【episode14 に続く】








episode1 から読んでみたいかたは、こちらからどうぞ。
   ↓
わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月







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