恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode15 微妙なダブルデート(2)


お店にはカウンターのほか、テーブル席と畳の席があった。

「こっちにどうぞ」
馬場に案内されて、三人は畳に上がる。掘りごたつになっていた。


「何飲む? ビールでいい?」
くだけた口調で、馬場が訊く。

「うん」
戸川が答える。

「お腹は?」
「あ、そんなに空いてないみたいだから、なんか軽くお願い」
「わかった」
姫は戸川に、ホテルで食事を済ませていることは伝えてあった。
戸川も軽く食べてきているのだろう。


奥から、馬場の父親らしき人が出てきた。
「戸川くん、いらっしゃい。お嬢さんたちも」
「こんばんは」
「あ、お邪魔してます」

ちょうどほかにお客さんがいなくて、貸切みたいだった。
お父さんが「お前、もう今日はいいぞ」と言い、馬場もエプロンを外して、姫たちのところに合流した。

今度は母親らしき女性が、おしぼりとビール、つき出しを持ってきてくれる。
「戸川くん、久しぶりね」
「あ、どうも」

姫とリナも、挨拶する。
「こんばんは。初めまして」
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」


戸川とは、昨日一日一緒に過ごしたせいか、姫はとても自然な感じでいられた。
そんな姫と戸川の様子に、馬場が気づく。

「戸川、よかったな」
「うん、まあな」

「ねぇ、馬場くん、いつもここで働いてるの?」
姫が尋ねる。

「いや、バイト。就職は一応、別の寿司屋に修行で行くことになってる」
「そうなんだ。じゃ、将来継ぐこと前提で?」
「うん」
「へぇ、修行って大変だね」
「ま、すぐ継いでもいいんだけど、まだおやじも現役だし。井の中の蛙になるのも嫌だしな」
「偉いのね」
「別に偉かねぇけど」
照れている馬場は、なかなか新鮮だった。

リナのことを馬場は好きなはずだが、ふたりは何も話していない。


お父さんがお刺身の盛り合わせと、サラダを持ってきてくれた。
「さ、食べて食べて。乾杯しようか」
馬場が嬉しそうに言う。

「乾杯」
「乾杯」

「ふたりは明日帰るの?」
馬場がリナのほうを初めて見て尋ねる。

「うん、そう」
「どこか行った?」
「えっと……」
リナが口ごもった。

昨日、リナはつきあっている江崎と、ディズニーランドに行っていた。
そのことを、姫は戸川についしゃべってしまったけど、リナはなんて答えるのだろう。

「どこも行ってない」
「そうなんだ? それで、明日もう帰っちゃうのって、なんだかもったいないよね?」
「でも、こうしてさ、思いがけず馬場くんのお店に来られてうれしいわ」
姫が代わりに答える。

「『食べにおいで』って、馬場くん言ってくれたじゃない? ゴールドコーストで」
「うん」
「だけど、こんな早く来れるなんて思ってもみなかった」
「俺もびっくり。まさか、ホントに来るなんて……」
「ごめーん。あれって、社交辞令だった?」
「ま、半分はな」
「あははははっ、やっぱ、そうだった? ごめんね、わたしの辞書に『社交辞令』って言葉ないから」
「欠陥品じゃないの、それ」

馬場とも自然と冗談交じりで話せるのが、姫はとても心地よかった。
リナは微笑んで、ずっと聞き役に徹している。


お母さんのご厚意でお土産に巻物を包んでもらって、姫たちは十一時に馬場のお店を出た。
大丈夫だと言ったのに戸川は、姫とリナをホテルまで送ってくれた。

「じゃ、明日、気を付けて京都に帰ってね」
「うん、ありがとう。何から何まで戸川くんにはお世話になっちゃって……ほんと、いろいろありがとうございました」
姫が軽く頭を下げると、リナもペコッとした。

「ううん、俺も楽しかったから」
名残惜しそうに戸川が姫を見つめる。

「じゃ、戸川くんも気をつけて帰ってね。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

姫は腕時計をチラッと見た。
もう零時前だったので、ふたりはそーっと部屋に戻った。
きっとほかの同期の子たちは、もう寝ているだろう。


        【episode15 (3)に続く】





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