恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode20 やさしい雨(1)


わたしがまだ姫と呼ばれていたころの話。

そのころ、姫はつきあっている男とギクシャクしていた。
同じホテルの別のセクションに勤める彼とは、同期入社で家も近かった。ふたりともひとり暮らしだったので、同じ早番のときは仕事が終わると、姫の家でご飯を食べることも多かった。
しかし、このところ、休みはおろか早番さえも一緒にならず、すれ違いの毎日。
夜、電話をしても、どちらかが寝ていたり、とタイミングも悪かった。

その日は、久しぶりにふたりとも早番。姫の家で晩ご飯を食べる約束だった。
職場では顔を合わせることはなかったので、姫は昼休み、彼からのメールを見て驚いた。
突然、遅番に代わったから、今日は行けなくなった、という一方的なものだった。
これまでにも、何度かシフトが変わって予定変更、ということがお互いにあった。
ただ、当日の、それも昼休みになっての連絡という、半ばドタキャンにも似た形だったので、姫はがっかりを通りこして悲しくなっていた。
シフトを代わった理由も書かれていなかった。
なんだか自分が大切にされていない気がして、泣きたい気分だった。
返事をする気にもなれず、姫はそのまま午後の勤務を終え、ひとりで帰った。

職場を出て駅に向かって歩いていると、急に空が真っ暗になり、大粒の雨が降ってきた。傘を持ってきていなかったので、咄嗟に近くの本屋に飛び込んだ。小さな個人経営のその本屋には、姫と同じように雨宿りをする人であふれていた。いつもなら、あまりお客さんもいないのに。
姫はトートバッグから取り出したタオルハンカチで、濡れた頭や腕を拭くと、料理雑誌のコーナーに向かった。
この本屋は職場に近いこともあり、よく利用していたので、どこに何が置いてあるかは把握済みだ。
最近、レパートリーが増えていないことを思い出し、新しい本をちょっと見てみようと思った。
『簡単・美味しい夏のさっぱりメニュー』という特集記事に惹かれ、姫は雑誌をめくり始めた。


          【episode20 (2)へ続く】


☆ このお話の中の「同期入社のカレ」については、こちらをどうぞ。

http://cafesanur.blog.fc2.com/blog-entry-23.html







episode1 から読んでみたいかたは、こちらからどうぞ。
   ↓
わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月








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