恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode5 整体(2)-3 フランキンセンス


このお話は、わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode4 整体(1) の続き になります。

よろしければ先に、episode4 整体(1) そして、 整体(2)-1、(2)-2 をお読みいただくと、話がわかりやすいかと思います。



口に出すのが恥ずかしいような言葉も、こうして目を閉じて、ただ念じるだけなら、いとも簡単にできた。
ただ、先生とは違って、姫には先生の思っていることが伝わってこない、というもどかしさがあった。

しばらく待ったけれど反応がないので、姫は薄目を開けてみた。

先生がいない!
なんで?
これって、浦島太郎よりひどくない?

姫は寝ていたベッドから起き上がると、キョロキョロ辺りを見渡した。
すると、ドアから先生が入ってきた。
「もう、先生、ひどい。急にいなくなるなんて」
「ごめん、ごめん。冷えてきたようだから、温かい飲み物をと思って、ハーブティーを淹れてきたよ。さぁ、どうぞ」
ガラスのティーカップからは、湯気が立ち上っている。

姫はベッドの上に座ったまま、先生のほうにからだを向け直すと静かに言った。
「先生、口移しで飲ませて」
甘えた口調ではなく、半ば命令的な物言いは、姫独特の一種の照れ隠しだった。

先生はきっとさっきのだって、わかってて席を外したんだ。だから、口移しで飲ませる義務がある。
姫は自分でもおかしな論理だと思う一方、先生が絶対するであろうという確信もあり、強気だった。

先生は少し困ったような、照れたような顔付きで、ハーブティーをふぅふぅと冷ますと、ひとくち口に含んだ。
そのままゆっくりと、姫のいるベッドのほうに近づいてきた。
さっきとは違って、愛しい者を見つめる柔らかな表情だ。
ベッドに座ったままの姫は、そんな先生を見上げて微笑んだ。
先生は姫の隣に座ると、背中に両腕を回し、優しく抱きしめた。
姫は目を閉じた。
唇に温かい感触が……。上唇と下唇をほんの少しだけ離すと、先生の口から生暖かい液体が流れ込んできた。
砂糖の甘さじゃない。こんなに甘いハーブティーは初めてだ。
ステビア? ううん、違う。
きっと、先生のせいだ。

それから、ゆっくり時間をかけて、先生の口から姫の口へとハーブティーは移動していった。
少しでも隙間ができるとこぼれてしまうから、「慎重に!」という大義名分を得て、濃厚なキスは堂々と行われた。
先生の口から完全に姫の口へと移され、その最後の一滴まで姫は飲み終えたが、お互い離れがたい思いがあった。
いつの間にか姫も先生の背中に腕を回し、きつく抱き合っていた。
それまでベッドに座っていた姫のからだが、ゆっくり倒された。
そのあとのことは、よく覚えていない。
フランキンセンスの香りに包まれて、甘美なときが流れていった。
なるようになっただけ。
ありきたりの言葉で言われたくはないが、きっと周りから見たらそんな展開だろう。
いくらふたりに、特別な事情があろうとなかろうと。

帰りに姫は、先生から小さな箱を渡された。
家に帰ってから、夜寝る前に開けるように、と言われ、これこそが玉手箱なんじゃないか、と少し不安になった。
先生はまた笑って、「大丈夫。おばあさんになったりしないよ」と言った。



                 【episode5 整体(2)-4に続く】



episode1 から読んでみたいかたは、こちらからどうぞ。
   ↓
わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月






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