恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode21 ブローティガンの詩集(8)


「ねぇ。今、ブローティガン、手に持ってるんだよね?」
男がどことなく、悪戯っぽい口調で言った。

「うん。え? まだ何かあったの」
「ううん、今思いついたんだ」
「なぁに?」
「姫は池澤夏樹さんのファンだから、ブローティガンの詩じゃなくて、訳のほうで言うね」
「うん、なんだろう」

「『こんなに優しくやってもらったことはなかった』っていう詩があるんだ」
「うん」
「それ、お願いしてもいい?」
「え? わたしが何かするの?」
「うん。その詩、読んでくれたらわかるから」
「うん、わかった。読んでみるね」
「その通りにしてくれたら、今日まで姫が気づかずにいたこと、赦してあげる」
「わかったわ。じゃ、読んだらすぐ行くから」
「ありがとう。待ってるよ」
「うん。ありがとね」

男が先に電話を切ったのを確認してから、姫も切った。
思い切って電話して本当に良かった、と姫は心の底から思った。
そして、はやる心を抑えて、男の指定した詩のページを探し始める。

あった。これだ。
引用してみる。



こんなに優しくやってもらったことはなかった
                       ―Mに

きみの口の甘いジュースは
蜂蜜を浴びた城のようだ。
こんなに優しくやってもらったことはなかった。
きみは城の輪をぼくの  (以下略)



ちょっと赤面。
でも、これは赦してもらうためだし、仕方ないわね。
姫は自分に言い聞かせると、片づけもそこそこに、シャワーを浴びて歯磨きをすると、いそいそと男の新しい家に向かった。



          【episode21 (9)へ続く】


☆参考文献☆

『チャイナタウンからの葉書』
R.ブローティガン 著
池澤夏樹 訳
株式会社 筑摩書房
2011年5月10日 第一刷発行







ブローティガンの詩集(1)
 は、こちらをご覧ください。
   ↓
http://cafesanur.blog.fc2.com/blog-entry-215.html







episode1 から読んでみたいかたは、こちらからどうぞ。
   ↓
わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月








にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村

恋愛小説 ブログランキングへ

☆ お読みいただき、ありがとうございます ☆
関連記事

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

cafe sanur

Author:cafe sanur

現在の閲覧者数: