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恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode6 元旦


その昔、わたしがまだ姫と呼ばれていたころの話。

そのころ、年末年始になると、居場所がなかった。
働いている独身の友達はみんな仕事納めが終わると、それぞれ実家に帰って行った。
わたしは実家に帰るほどの休みが取れなかったことと、帰ったところで大して面白いこともなかったので、いつも一人暮らしのマンションで過ごしていた。

ひとりぼっちのクリスマスが淋しい、なんて言うのは実家暮らしの者だけだろう。
実際、クリスマスにひとりでいることなんて、お正月にひとりきりでいることを思えば、なんてことなかった。

元旦、みんながご来光を有難がっているころには、もう職場にいた。
ホテルは年中無休。お正月を楽しむ家族連れのお客さまに「おめでとうございます」と、にこやかに振り袖姿で微笑む。
「いかがですか」と、ロビーでお屠蘇を勧める。隣にいる支配人も、今日はスーツではなく、袴姿でお屠蘇サービスに努めている。

少しお客さまが途切れたころ、支配人が言った。
「ご苦労さん。少し休憩してきていいよ。ずっと着物だと疲れるだろ」
「ありがとうございます。ハイ、慣れなくて……。でも、振り袖を着られるのはうれしいです」
正直な気持ちだった。
「では、少し頂きます」
「うん、ゆっくりしてきていいよ。もうすぐお昼だから、そのまま昼休憩に入っていいよ」
「大丈夫ですか」
「ああ。お屠蘇サービスは午前中だけだから」
「はい、ありがとうございます」

従業員食堂に行くと、早番の人たちの第一陣が集まってきていた。
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
口々に挨拶しながら、みんな席を確保している。姫も空いている近くの席に座った。
「姫、可愛い~」
同期の子や先輩たちが、駆け寄ってきて誉めてくれる。素直にうれしい。お正月(三が日)に振り袖を着られるのは、フロントの女子社員の中で毎日ひとりだけ。
たまたま、今年は元旦に姫が当番になった。
従食も今日はお正月メニューで、お雑煮も付いていた。早朝出勤で朝から何も食べていなかったので、すごくうれしい。

「今日、何時に上がるの?」
隣の席にいつの間にか座っていた、同期の男が姫に尋ねた。
「三時よ」
「早いんだな」
「だって、六時半からだもん、今日」
「着付けとか、どうしたの」
「ホテルの美容室でしてもらった」
「自分じゃ、やっぱ、無理だよな」
「あったりまえじゃん」
「今日、特別可愛いな、お前」
「お前って言わないで」
「綺麗だよ」
「ガラにもないこと、言わないの」
「惚れそう」
「何、バカなこと言ってんの」
「ほんとさ」
仕事中、お屠蘇は飲んでいない。なのに、なんでこんなに頬が熱いんだろう。

「仕事終わったら、デニーズで待ってて」
何気ない感じで男が言った。
「なんで?」
「渡したいものがある」
「何? 今、ちょうだい」
「あとで」
「行かない、……って言ったら?」
「あげない」
「考えとく」

午後からは特に変わったこともなく、すぐに時間が過ぎた。BGMも含め、館内全体がのんびりしている。昨日までの、あの年末の慌ただしさは何だったんだろう、と毎年思う。

「じゃ、お先に失礼しまーす」
「お疲れさまでしたー」
みんなを残し、ひとりだけ先に上がった。
ロッカーで着替えながら、この後どうしようかなと考えた。いつもならコンビニで何か買って、マンションに帰る。

外に出て、最初に見た人が男の人ならデニーズに行こう。咄嗟に決めた。

通用口から外に出る。
あ、男の人だ!
心なしか喜んでいる自分自身に、少し驚く姫。

今年は、何か違うかもしれない。
新しい年、新しい居場所ができるような気がした。






episode1 から読んでみたいかたは、こちらからどうぞ。
   ↓
わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月





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1,000文字前後にしようと思っていたのですが、ちょっとオーバーして1,500字になっちゃいました。

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