恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode8 成人の日(1)


その昔、わたしがまだ姫と呼ばれていたころの話。

そのころ、大学の女子寮で暮らしていた姫にも、成人の日が訪れた。
といっても、成人の日記念式典には参加しない。なぜなら、実家のある住所から住民票を移していないため、案内状が来ていないからだ。来ていなくても自分で申し込めば参加できる、とあとから聞いたのだが、なんとなくどうでもいい気がして見送った。

部屋の窓を開けて、朝一番の空気を吸い込む。昨夜から降っていた初雪は、すでに止んでいた。雪のせいで世界がいつもより眩しい。
今日は何をしようかな。
朝陽をからだいっぱいに浴びながら、姫は考えた。

そのとき、廊下から館内放送が聞こえた。
「二回生の姫さん、二回生の姫さん、お電話です。受付までお越しください」
携帯電話を持っていない人のために、この女子寮には電話が三台ある。外線がかかってくると、受付当番の人がマイクで呼び出してくれる。
ほとんどの人は携帯電話を持っているので、呼び出されるのは姫とあと五人くらい。中でも、姫にかかってくるのがダントツだったので「館内放送、イコール、姫」という図式がみんなの頭にはあった。

四階から階段を駆け下りると、受付までダッシュした。エレベーターが来るのを待っているより、階段のほうが速い。

「ありがとうございまーす」
受付当番の人に挨拶して、受話器を取る。

「姫ちゃん?」
「はい」
「ボク」
「あ、センパイ。どうしたんですか、こんな朝早くから」
「姫ちゃん、成人おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「今日って、式典、出るの?」
「ううん、申込してないから」
「なら、今日の予定は?」
「うーん、特に……」
「何時ごろ、出られそう?」
「え? 今日?」
「うん。お祝いしよう! 迎えに行くから」
「えー?」
「ボクじゃ、ダメかな」
「ううん、すごくうれしい。でも、今起きたとこなの」
「いいよ。姫ちゃんの用意ができたころ、迎えに行くから」
「ありがとうございます。なんか、思ってもみなかったから……」
「何時ごろ行こうか?」
「えーっと……九時でもいいですか?」
「OK。じゃ、寮の駐車場に行くね」
「はい、お願いします」

電話を切って受付当番の人に返すと、すかさず訊かれた。
「姫さん、デートですか」
「ううん、違うの。センパイがね……」
「朝からいいですねー」
「違うんだってば。センパイが成人のお祝いしてくれるんだって」
「いいじゃないですかー」
否定すればするほど怪しまれそうだったので、姫は「うん。いいでしょー」とわざと明るく言って、受付をあとにした。

雪は止んで太陽もキラキラしているけれど、外はやっぱり寒いよね。
スカートにしようかな、それとも、暖かいパンツがいいかな。車の中はそんなに寒くないか……。
階段を一段飛ばしに急いで昇りながら、頭の中もフル回転の姫。
センパイはどんな格好してくるのかな。お祝いって言ってたから、ドレスアップしたほうがいいかな。

部屋の姿見の前に立つこと十五分。結局、白いVネックのセーターに、赤いチェックのスカート、ベージュのコートとロングブーツに決める。セカンドバッグもベージュで揃える。
アクセサリーは、真珠のネックレスと、お揃いの揺れるタイプの真珠のイヤリング。
前に、このスカート、可愛いってセンパイに言われたことがあった。
思いがけないお出かけに、テンションが高くなる姫。


       【episode8 成人の日(2)に続く】





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わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月






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