スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

恋愛小説:わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(2)


このお話は、わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode10 スカッシュ(1) の続き になります。

よろしければ先に、episode10 スカッシュ(1) をお読みいただくと、話がわかりやすいかと思います。




その日の体験レッスンは、姫だけだった。これは奇跡的な幸運だったと、あとになって姫は思った。
「姫さん、今日はマンツーマンなので、ゆっくり自分のペースで、楽しんでいきましょう」
斗真コーチ(と、勝手に姫は呼んでいた)の穏やかな掛け声で、レッスンは始まった。

スカッシュコートはガラスの箱みたいだ。正面と左右の壁はガラス張りではないけれど、出入りする面が透明なガラスなので、外から見られているのがよくわかる。

ストレッチを含む軽い準備運動のあと、斗真コーチがラケットの持ち方、構え方を丁寧に教えてくれた。
テニス経験のある姫は、スカッシュも同じようなものだから簡単にできるだろう、と高をくくっていた。ところが、まず構え方が違った。テニスでは正面を向いて構えるが、スカッシュだと横向き、つまり右利きの姫の場合は、右の壁に向いて立つことになる。これが、フォアハンド。

「一、二、三。……一、二、三」
コーチの掛け声に合わせて、素振りする。
フォアハンドはなんとか形になっていたけれど、バックハンドのとき、姫はテニスの癖でつい両手打ちになってしまう。
スカッシュでは片手でしか打たないのだと言われた。余計な経験が邪魔をして、なかなかうまくできない。
「コーチ、どうしてもテニスの癖が出ちゃうみたい」
姫は珍しく弱気になった。
「大丈夫。すぐ慣れますよ」
コーチは、にこにこして言う。

「じゃ、実際にボールを打ってみましょう」
「はい」
コーチは小さな黒いゴムボールを、ハーフパンツのポケットから取り出すと、床にラケットでポンポンポンポンポンッとリズミカルに打ちつけた。すごい速さだ。
それから、正面の壁に向かって思いっきり打つ。ワンバウンドして戻ってきたところを、すばやくまた正面に叩きつける。これを連続して、ビタンッ、ビタンッ、ビタンッと何度も繰り返す。
リズムがあっていいけれど、コーチ、もしかして、怒ってる? と、疑いたくなるような激しい打ち方。
さっきまでの優しいコーチは、どうしちゃったの?
姫はその迫力に、少し圧倒されていた。

「さぁ、ボールが温まったので、打ってみましょう」
「あの~、コーチ。なんかさっき、ちょっと怖かったんですけど」
「あ~、ごめんごめん。スカッシュのボールって、寒いと硬いままで弾まないから、早く温めようと思って」
「硬いと打てないんですか」
「弾まないから、打ってもすぐ下に落っこっちゃうんだ」
「そうなんだ~」
「温まると、ボールの中の空気が膨張するから弾むようになるんだよ。……じゃあ、行くよ」
「はい、お願いします」

なんという運動量だろう。空振りも何度かしたけれど、姫は必死に食らいついていった。
五分もしないのに、もう汗だくだ。ハァハァするし、喉もカラカラ。姫はコーチに願い出る。
「ちょっと汗を拭いて、お水飲んできてもいいですか」
「じゃ、ちょっと外に出て休憩しましょう」

コーチが先に立って、コートのドアを開けてくれる。姫はコートから出ると、ベンチに座ってまずタオルで汗を押さえ、続いてミネラルウォーターをゴクゴク飲んだ。
隣に座ったコーチも少しだけ飲んでいた。

「姫さん、上手ですよ」
「もうバテてますけど」
姫は苦笑いした。
「スカッシュは、テニスの二倍の運動量だって言うから」
「そうなんですね。ずいぶんハードだと思ったら」
「でも、初めてでこれくらい打てたらすごいですよ。姫さん、センスある」
「そう? コーチ、みんなに言ってるんでしょー?」
「いやいや、ほんとに上手ですよ」
「それはね、きっと教える人が上手だから」
「ありがとうございます。そう言われると、うれしいな。じゃ、後半戦、もうちょっと行きますか?」
「はい、よろしくお願いします」




     【episode10 スカッシュ(3)に続く】





episode1 から読んでみたいかたは、こちらからどうぞ。
   ↓
わたしがまだ姫と呼ばれていたころ episode1 三日月







にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
にほんブログ村

恋愛小説 ブログランキングへ

☆ お読みいただき、ありがとうございます ☆
関連記事

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

cafe sanur

Author:cafe sanur

現在の閲覧者数:
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。